光軸調整
先日、ビクセンR200SS+エクステンダーPHを新規導入した。
だが、納品時のまま無調整で撮影したところ、星像が中央部でも「おにぎり型」になったり、周辺部での歪みが大きい事がわかった。
握り飯のことを「おにぎり」というのか「おむすび」というのか、その違いがわからないが、いずれにせよ光軸調整の必要がある。R200SSの説明書によると「光軸調整はユーザーで行わずメーカーに依頼すること」となっており、調整ネジの説明すら載っていない。更に斜鏡調整ネジ部はシールで封印されており、ハードルの高さを感じる。私自身は最近まで光軸調整の煩わしさから反射望遠鏡を避けてきたので、全く経験がない(ミューロン180Cの副鏡のみ)。しかしここで踏みとどまると何も始まらないので、とりあえず笠井トレーディングの「光軸調整読本」、「反射用光軸修正補助治具ALINE」、「光軸修正用アイピース」の3つを購入して挑むことにした。
光軸修正読本には様々なタイプの反射望遠鏡について書かれているが、今回は後ろの方の「最新型ニュートン」を参考にした(オフセット斜鏡のため)。これによると、おおむね次の3段階で修正するらしい。ここは素直にそれに従って進めた。
- 斜鏡の前後位置調整
- 斜鏡の角度・回転調整
- 主鏡の傾き調整
斜鏡の前後位置調整
まずは斜鏡調整ネジの封印シールを剥がさないといけない。新品で購入したばかりの望遠鏡なので、ちょっと勇気がいるが、シール端にマイナスドライバーを突っ込んで持ち上げ、あとは手でメリメリと剥がした。
すると、斜鏡調整ネジが現れた。3つの押しネジは2.5mmの六角レンチ、真ん中の引きネジはプラスドライバーで動かす。
斜鏡の位置が分かりやすいよう、鏡筒内部にトレーシングペーパーを入れた。
R200SSの斜鏡はにはセンターマークが無いが、その場合は長い十字線入りアイピースではなく、短いALINEで覗き、接眼筒と斜鏡が同心円になれば良いとのこと(オフセット型斜鏡のため)。なお、小さな斜鏡の場合にセンターマークを打つのは結像に悪影響があるので推奨されないとのこと。
元からほぼ合っていたが、若干筒先側(画像の左側)に寄っていたため、引きネジを緩めて押しネジを均等に締め、真ん中へ調整した。このときネジを緩めるといきなりフリーになって回転もしたので、斜鏡の保持具自体を手で支えてネジを締めた。
斜鏡の傾き・回転調整
鏡筒内のトレーシングペーパーを取り去り、十字線入りの長い光軸調整アイピースを使って覗き、十字線の中心と主鏡のセンターマークが一致するように、斜鏡の傾きと回転を調整するとのこと(現在のR200SSには最初から主鏡センターマークが入っている)。このとき、斜鏡に写った主鏡の輪郭についても、斜鏡の輪郭および光軸調整アイピースの内側輪郭と同心円にならなければならない。これはオフセット斜鏡であるため(通常タイプの斜鏡では斜鏡の輪郭のみ同心円にならない)。
説明を読むとなるほどと思うが、実際にやってみると非常に苦労した。そもそも、十字線とセンターマークの両方に眼のピントが合わない。また眼の位置によって十字線とセンターマークの位置もずれる。説明にあるように出来るだけアイピースの穴から遠い位置から覗き、斜鏡の押しネジを動かしてなんとか調整した。
なお、この調整の様子の写真を記録として撮影したかったが、カメラをアイピースから覗かせても、十字線とセンターマークの両方が写らない。なんとかズレている状態の時のみ撮影できた。
このセンターマークが十字線の中心に重なるよう調整する。
それを合わせたら、一旦十字線入りアイピースを外し、短いALINEに替えて、斜鏡輪郭と主鏡輪郭が同心円になっている確認し、ズレているようなら斜鏡の回転を調整する。するとセンターマークがずれるので、またセンターマークを合わせる・・・。という繰り返しになる。
かなり時間がかかったが、なんとかやりきった。
主鏡の傾き調整
主鏡の傾き調整には十字線の無い短いALINEを使い、ALINE中心の黒点と、主鏡センターマークが同心円になるよう調整する。
調整は3ヶ所の押しネジ・引きネジで行う。これは2つとも2.5mmの六角レンチで動かせる。
斜鏡に比べると簡単とはいえ、接眼部から離れているので調整の効率は悪い。また、これも眼の位置でズレるので、判断がなかなか難しい。ここでレーザーコリメータがあればもっと効率良く調整できるそうだ。ただ、いま安価に売られているレーザーコリメータはあまり評判がよろしくないので、購入するのはためらわれる。
まだ少しズレている気がする(ALINEの穴が若干左上気味)。しかし、もうこれ以上は無理。なお斜鏡の黒い影はオフセットしているので、同心円で無くて良いそうだ。
以上で調整完了。かなりの時間がかかった。
思うのだが、ファインダーにしても反射望遠鏡にしても、3点のネジで位置調整するというのは、人間が3軸(均等120°)の座標系を直感的に把握できない限り無理があると思う。そろそろ何か画期的な機構は出ないものか。カメラで画像認識させて、後はAIが調整するネジと回す角度を指示してくれるとか。
実写による確認
光軸調整が済んだので、早速実写確認を行った。前回はうっかり星の少ない領域を撮影してしまい、星が少なくて困ったので、今回は天の川の中のM71(や座の球状星団)付近を対象にした。
エクステンダーPHの先端にComet BPフィルターを装着してR200SSに付け、カメラはASI294MC Proを用いた。0℃・ゲイン200で60秒露出。ダーク・フラットなしでレベル調整・デジタル現像のみ。
FlatAide Proでの等倍星像チャート。
結果としては、残念ながら中央部の「おにぎり型」は改善されていないし、周辺部も同じく歪んだ星像になっている。
この日はシーイングが非常に悪く、ピント合わせ時にも星がグニャグニャ変形する状態だったので、等倍での星像はぼやけ気味。しかし何枚か撮影しても同じ傾向なので、やはりまだ改善されていないのだと思う。
長時間かけて調整した(つもり)だったので、正直言ってかなりガックリした。
星像の改善
「光軸調整読本」によると、星像が「おにぎり型」になるのは主鏡または斜鏡の圧迫の可能性が大きく、斜鏡の位置不良による口径食も考えられるそうだ。斜鏡の位置は結構正確に合わせたので、まず最も疑われるのは主鏡の押しネジ・引きネジを締めすぎたこと。調整時には意識してゆるく締めたつもりだが、それでも締めすぎていたのかも。そう思って主鏡の押しネジ・引きネジを慎重に・均等に緩めていった。
しかしかなり緩めても「おにぎり型」は改善しなかった。
やっぱり斜鏡か・・・。でも斜鏡の調整は苦労したのであまり触りたくない。斜鏡に手を出す前に主鏡周りで目に止まったのが、主鏡セルを鏡筒に取り付けている側面のネジ。
これが鏡筒周りに均等に6ヶ所ある。ちょっと怪しいので、これも均等に緩めてみた。
それで撮影した画像の等倍星像チャートが下の画像。
これは・・・。かなり改善している。中央部はまだ若干楕円になっているが、ほぼ許容範囲といえる(星像のボケは気流の悪さのせいと思うので仕方ない)。一方、周辺部はまだ歪みが目立つ。
念の為に、もう一度6ヶ所の主鏡セル側面ネジをキツめに締めると「おにぎり型」が復活したので、やはりこのネジが星像に影響しているようだ。もう一度、おにぎり型が解消する程度に均等に緩めておいた。
まだ中央部で若干の楕円になっているのと、周辺部の歪みが残っている。これは主鏡の押しネジ。引きネジを色々と動かしたのと側面ネジの締め方を変えたので、主鏡の状態がズレたのかもしれない。カメラのセンサーは「フォーサーズ」であり小さいので、その周辺部はフルサイズセンサーの中間点辺りだと思う。エクステンダーPHの性能はこんなものではないはず。
ここは再度調整の必要があるが、今回は時間も遅いし力尽きたのでこれにて終了。
初めて光軸調整をやってみた感想
短焦点反射望遠鏡の光軸調整(特に斜鏡)の面倒さはあらかじめ知識としてあったので、手間と時間がかかるのは織り込み済みだった。しかしその苦労の結果として星像が改善されない場合、そこからどうすればよいのか分からなくなる。
特に、側面のネジを少し触っただけで星像が一気に改善したのは喜ばしいことではあるが、一方、そのデリケートさにも驚いた。少しの事で大幅改善するということは、逆に悪化することもあるということである。その原因がわからなければ手の施しようがなく、運が悪ければ新月快晴の空を横目に延々と光軸調整するはめになり、それはちょっと心が折れそうになる。
これは・・・、この先使いこなせるのか、更にお金をかけて「コレクターPH」まで買ってしまって良いものか、非常に悩む。
小口径屈折の安楽な世界で暮らしていた者にとって、短焦点反射の「光軸道」はあまりにも険しい。
続きはこちら
コメント