【書籍】「アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル」

天体撮影のノウハウをまとめた初心者むけ入門書

2023年5月15日に発売開始される「アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル」。JUNZO(著)、日本実業出版社、定価\2,000+税。

アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル(表紙)
アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル(表紙)

この書籍に、当ブログA’s balcony(A-1名義)からも7点ほどの銀河・星雲画像を提供したので、少し紹介する。

なお、内容の「チラ見」は下記URLから可能。

銀河星雲マニア
個人で銀河や星雲を楽しもう!

この本は著者であるJUNZOさんがふとしたきっかけで「アンドロメダ銀河の渦巻きはアマチュアでも手の届く金額の道具で誰でも撮影できる」ということを知り、全くの初心者段階から情報収集と試行錯誤を繰り返し、その過程で得られたノウハウ・情報をまとめたもの。従来のいわゆる「天体写真入門書」はベテランやプロの天文家が先生の視点で教えるように書いているのに対し、この本は初心者JUNZOさんの驚き体験の連続と苦闘、そして達成感の記録である。つまり先生ではなく「仲間の体験談」を聞いているのに近い。「それなら俺もやってみるか」という気になりそうだ。したがって内容は生々しいし、失敗やつまずきの部分も説明されているので、これから始める初心者にとっては共感しながら一緒に進めていけるのではないか。

WEBに情報があふれているこの時代だが、初心者がやりたいこと(例えば、アンドロメダ銀河の渦巻きを画像化したい)を達成するために必要な道具や、その買い方、設定、撮り方、画像処理など一連の情報は散在しているため、それを自分なりに整理して理解するには大変な労力・時間がかかる。それをJUNZOさんは驚異的なモチベーションと行動力で一冊の本にまとめ上げた。

多くの天文業界プロ・アマチュアへの取材・協力による正しい内容

特に行動力には驚かされた。この本を買った方は、あとがきに記された協力者の名前を見てほしい。天文趣味・天体写真趣味界で著名な方々の名前が並んでいる。JUNZOさんは天文業界の人ではないので、当初何のコネも無かったはず。しかし初心者入門書をまとめるにあたっては正確かつ最新の知識が必要となり、これらの方々に一人一人連絡を取って協力を依頼していったのだと思う。さらにそれで得た知識・ノウハウについて、実際に自分で機器やソフトウェアを購入して実践・確認し、全ての手順を詳しくまとめた。

そういう過程を経ているため、この本は「何もわからないライターが聞きかじりで書いた内容の薄い本」の類ではない。間違ったことを書けば校正段階で、例えば光学や機器なら中川さんをはじめプロの開発・販売の協力者から、画像処理なら蒼月城さんなどから指摘が入っただろう。もちろん単なる受け売りではなく、それらの方々から得た正しい最新知識をベースとして、著者JUNZOさんのポリシーに従って話をまとめている。本書の語り口はとてもカジュアルで軽いノリだが、内容は大変真面目で、最新の電子技術を駆使した天体画像撮影・電視観望のノウハウの集大成である。

「復活組」にもおすすめ

実はこの本は天体写真趣味「復活組」にもおすすめと思っている。例えば、「フィルムカメラをポータブル赤道儀に載せて撮影していた」、「初期のデジカメで直焦点撮影していた」ぐらいの時代で止まっていた方が、現在「復活」しようとすると、「天体専用CMOSカメラ」、「Wi- Fi接続」、「スマホ・タブレットアプリ制御」、「自動導入・Plate Solving」、「電子極軸合わせ」、「ライブスタッキング」、「多彩な画像処理」・・・。など、浦島太郎状態ではなかろうか。特にソフトウェア技術利用が苦手なシニアの方は、情報集めだけでも苦労しそうだ。

光学式極軸望遠鏡ですんなり極軸合わせを行い、赤道儀を手動で動かして、目盛環と星図とファインダーで銀河・星雲を次々導入できるベテランでも、「AZ-GTiのファームウェアを更新して赤道儀化し、ASIAIRとWi-Fi接続してスマホで制御し、極軸はアプリで合わせ、PlateSolvingでM31を導入し、オートガイドしながらCMOSカメラでライブスタッキングして可視化」するのは、それなりに情報収集する手間がかかる。

その点、著者のJUNZOさんは元ゲーム会社勤務で、現在も自分が運営するWEBサイトのプログラムを自分で書くソフトウェア技術の達人であるので、このあたりの理解は速かったのだと思う。そのため本書でもソフトウェアの利用(機器制御・画像処理)の解説は初心者にも復活組にもわかりやすく詳しく書かれている。これは本書の強みである。

そして、正しい手順で設定・設置して操作すれば、後は本当に簡単に映像化できる。つまり、最も大変な情報収集段階の苦労を本書がかなり低減してくれる。

今後の期待

現在、天体撮影機器は中国製を中心に電子化が進み、日進月歩で進化している。実際、本書の締め切り直前には安価で高機能な赤道儀であるSky-Watcherの「Star Adventurer GTi」が日本国内で販売開始された。これはAZ-GTiよりは高価だが、赤道儀化のための部品集めやファーム更新など煩雑な手間が無く初心者向けの選択肢となりうる。また完全自動のシステムとしてはこれまでの製品に比べて驚異的に安価なZWOの「seestar」というものが出てきた。これらは残念ながら本書には間に合わないタイミングだった。また、ソフトウェアのユーザーインターフェースもどんどん変わっていく。本書の説明は詳しくて丁寧であるがために、その反面、ユーザーインターフェース変更や新機能への追従がネックとなる。このように、これからもハードウェア・ソフトウェアの進歩は続くので、JUNZOさんのモチベーションと資金力が続くのであれば今後の続編に期待したい。

アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル(裏表紙)
アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル(裏表紙)

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