導入の経緯
ビクセンの20cmニュートン式反射望遠鏡「R200SS」と「エクステンダーPHキット」を新規導入した。この組み合わせで焦点距離1120mm、F5.6となる。目的は自宅での星雲・星団、系外銀河の撮影。
なぜ今回この望遠鏡の新規導入に至ったのか?
それはこれまで揃えてきた望遠鏡(鏡筒)のラインアップにて、この口径20cm級・F5付近が抜けていたから。サイズが小さくて暗めの系外銀河や星雲・星団を撮影する鏡筒としてこのクラスが必要となっていた。
私の望遠鏡入門は高校生の頃に購入したビクセン製の9cmアクロマート屈折+ニューポラリス赤道儀だが、大学の天文研究会に入ってからは研究会の望遠鏡があるため、自分の望遠鏡は使わなくなっていた。その後しばらく天文からは遠ざかり、ヘール・ボップ彗星を機に天文活動を復活してからもポータブル赤道儀による星野撮影が主で、望遠鏡の購入は考えていなかった。
しかし星野撮影している間に経緯台で眼視観望をしたくなり、2007年にビクセンED100Sf(アポ屈折)とポルタ経緯台を購入した。これが出発点となる(現在は譲渡して手元にない)。その後すぐ、低倍率用にSE120を購入して、これとポルタで紙の星図を見ながらの全M天体の完全手動導入を完了。更に2009年に写真を主目的とした3枚玉アポの「FLT98CF」を購入。サブ機・ガイド用としてBORG60EDを追加したものの、この後10年間ぐらいはこのFLT98CFほぼ一本で何でも撮影・観望してきた。「10cm級アポクロマートは万能機」と言われるだけあって、自宅での惑星の拡大撮影から遠征での淡い星雲撮影、彗星の撮影、月・太陽撮影など何でもこなすことができた。ただ、やはり口径なりの限界があって、20cm級へのステップアップを考えるようになった。
そこで2020年2月、まずは惑星用として久しぶりに購入した望遠鏡が「ミューロン180C」である。当初、20cm級は1本で済まそうと考えていた。その場合の第一候補はセレストロンの「EdgeHD800」であった。惑星とDeppSkyの両方をカバーできそうだし、当時レデューサーとセットでかなり安く出ていたので、ほぼこれに決めかけていた。しかし、火星の準大接近を控え、やはりまずは惑星に特化したいと思うのと、ラインアップの中に一つぐらいは「タカハシの望遠鏡」を入れたいという思いからミューロン180Cに決めた(経緯はこちら)。なお、更に上のクラスのミューロン210以上やC9.25以上は現在の赤道儀とバルコニーのサイズ、赤道儀への載せ降ろしの際の体力面から運用が苦しいと判断した。ミューロン180Cは当初予定していた惑星だけでなく、輝度の高い惑星状星雲や球状星団にも適していることが分かり、この半年ぐらいは集中して使っている(こちら)。
このような経緯で、比較的低輝度の系外銀河、星雲・星団を撮影するための20cm級鏡筒が別に必要となっていた。そこで今回選定したのが、ビクセンR200SS+エクステンダーPHである。
口径20cm級でミューロン180Cと10cmアポ(FLT98CF)の間を埋めるとすれば、各社20cmF4ニュートンか、GS-200RC、EdgeHD800が選択肢となる。ここでEdgeHD800はミューロン180Cに近いので候補から外れた。GS-200RCは結構迷ったが、レデューサーを使っても1200mm・F6が最短焦点距離となる。自宅は光害地なのでナローバンドフィルターを用いた撮影が主になる上、視界が限られており撮影可能時間帯が短いので、できるだけF値が明るいほうが望ましい。そのため、F4~F5程度のニュートン式に決めた。このクラスはSkyWactherや笠井トレーディングなどからも出ているが、純正のコレクター・エクステンダーの評判が良いのと重量が軽いことから、最終的にビクセンR200SSを選定した。できればコレクターPHも合わせて購入したかったが、かなりの金額になってしまうので、まずは長焦点距離側で「銀河砲」とするためのエクステンダーPHのみ購入した。
到着
品薄のようで発注から数週間待たされたが、無事到着し、開封の儀となった。
鏡筒バンドに付いている持ち運び用の取っ手は結構柔らかいが、劣化してちぎれたりしないか心配。暗視野照明ファインダーが付いているが、これは使わない予定。
写真撮影のためにはフォーカスを精密に合わせるための微動装置が必要になるが、R200SSについては標準では付属しておらず別売り(デュアルスピードフォーカサー)。そしてこれが結構高価なので、それなら最初から電動フォーカサーを付けようということで、ZWO社のEAFも合わせて購入した。これをR200SSに取り付けるために、星見屋オリジナルの取り付け治具(ZWOEAF_Vixen接眼部用スペーサー)も購入。これは普段撮影に使っているAPTで問題なく動作した。
エクステンダーPHキットには、ビクセン製の「直焦ワイドアダプター60」+「EOS用Tリング」を付け、他の鏡筒と同じくEOSマウント(キャノンEFマウント)で統一した。直焦ワイドアダプターには高価なDX版もあるが、今回はDXのつかない廉価版のほうにした。これは、普段使っているZWO社カメラのEOSマウントアダプターが個体差なのか、どうやらキツめの作りになっているようで、タカハシ純正の高精度Tリング(カメラマウントDX-S)が入らなかった経験があるため。ビクセン製のDX版の方も本物のEOSカメラに合わせた高精度な作りになっているとしたら、ZWOのカメラアダプタに入らないのではと危惧した。なお、タカハシのカメラマウントDX-Sは、本物のEOSカメラに付けるとガタもなくしっかりと取り付けられる。
鏡筒先に付けるフードについては、最初はダンボールか銀色マットで自作するつもりでいたが、あまり暇がなかったのと、やはり純正品が良いのではと思って、純正品(ビクセン200mm対物フード)を購入した。しかしこれは失敗だった。純正品に期待したしっかりした作りではなくペラペラで、取り付けの面ファスナーも細くて結構頼りない。内面も植毛紙が無くテカテカのまま(上の画像でも内面が反射しているのが分かる)。これならダンボールで作って内側に良質な植毛紙を貼り付けたほうが良かったと思う。とりあえず植毛紙を買い足して内面に貼ろうと思うが、無駄な買い物をしてしまった。
設置
ひとまず赤道儀に載せてセットアップしてみた。
ガイドスコープはミニボーグ50とASI178MMの組み合わせ(詳細はこちら)で、ファインダー台座にファインダー台座用アリガタとアルカスイス互換クランプを介して付けた。またエクステンダーPHとカメラを付けた接眼部は下向きになるようにした。。ガイドスコープとカメラの重心が赤経軸に近いためか、バランスウェイトは5kgの物1個で済んだ。バランスウェイトシャフトの延長をしているが、ミューロン180Cのセットに比べて、ウェイトの位置が数cm下がっただけになった。
EAF(電動フォーカサー)とガイドカメラは撮影カメラ(ASI294MC Pro)に接続している。撮影カメラにUSBハブ機能があるのは便利。
バランスウェイトは1個で済んだが、赤緯軸回りのバランスを取るのは難しかった。最終的には上の画像のように、接眼部(カメラ)とファインダー台座に付けたガイドスコープが「ハの字」になる状態で最もバランスが良好となった。ただしこのようにカメラが斜めになっていると、写野の縦横を天球上の東西・南北に合わせるのが難しくなる。正式な観測写真を撮るのではないので厳密に合わせる必要はないと思うが、できれば接眼部は真下にしたいところ。しばらくオートガイドを試してみて、多少バランスが崩れていても大丈夫そうならカメラは真下にしたい。
ファーストライト
セットアップした日は快晴だったため、また光軸の確認も調整も何もしていない状態だったが、とりあえず実写してみることにした。なお、エクステンダーPHの先端部にComet BPフィルターを付けている。
上の画像は、0℃・ゲイン200で180秒の1コマ撮り。ダークもフラットも無しで、レベル調整のみしたものを25%に縮小した。
星像を確認するため、FlatAide Proで「等倍星像チャート」を作成した(下の画像)。
後で気がついたが、M13の周囲には星が少なく、四隅の星像が確認しにくかった。特に右上はほとんど星が無い。天の川の中を撮影すればよかった。
この画像では、右側(特に右下)の星像の流れが目立つ。おそらくピント位置でも変化するのだろうが、別の対象では中央部でも星像が「おにぎり型」になる場合があった。出荷時でもそこそこ調整されているようだが、「銀河砲」として小さめの系外銀河を撮影する場合はピクセル等倍で使うことが多いと思うので、やはり再調整が必要になりそう。このような面倒さからこれまで反射望遠鏡を避けてきたが、大口径化のためにはやむを得ない。
撮影については特に問題なかった。EAF(フォーカサー)は撮影に使っているAPTで問題なく制御できた。まだオートフォーカスは試していないが、マウスクリックによる手動フォーカスでブレ無く微調整できるのは快適。ガイドについてもこのシステムにて既にミューロン180Cのf=1800mmで安定して成功しているので、それより短い焦点距離ならばオフアキは必要なさそう。
フラット補正のためのELシートはミューロン180C用のA4版では若干小さめなので、新たにA3版で作り直した(それについては別記事にする予定)。
続き(光軸調整)はこちら
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