きっかけ
現在バルコニーで主力で使っているケンコーNEWスカイエクスプローラーSEII(SE2)赤道儀は、加古川のマンションに住んでいた2010年に2台目として購入したもの。2008年に購入した1台目のSE2赤道儀は遠征専用機としていたが、現在は休眠中(電源接続部の調子が悪く突然電源が落ちたりする)。
2台目の方は10年経った現在も快調に動いている。M店長時代の趣味人で購入して納品前に調整してもらったためか、当初から900mmぐらいの焦点距離までは問題なくガイドできている。しかし音については、天体導入の高速駆動時にガラガラ・ビリビリという音がすることがあり、それが年々悪くなっているようで気になっていた(恒星時運転やガイド時は問題ない)。購入から10年を経過していることもあって、もう少し搭載重量が大きめでベルト駆動の静かな赤道儀(例えばEQ6RやGEM45など)にでも買い換えるかと思い、WEBでベルト駆動赤道儀について色々検索してみたら、このSE2赤道儀をベルト駆動化改造している方が結構おられることが分かった。
新規に赤道儀を購入するのは結構お金がかかるので、まずは手持ちのSE2赤道儀をベルト駆動化した上で色々調整してみて、もう少し使ってみようと考えた。休眠中で調子が悪いもう一台のSE2赤道儀も部品取りに使えるし、もう10年経っているので、最悪壊してしまっても諦めがつく。
そういうわけで、これまでほとんど自分では手を入れていなかったSE2赤道儀をベルト駆動化改造することにした。
(なお、改造にあたってはこちらのブログ記事を主に参考にさせて頂きました。ありがとうございます。)
部品調達
ベルト駆動化改造用の部品は英国の「Rowan Astronomy」から通販で購入できる。
ここでベルト化改造キットの「HEQ5 & Orion Sirius Pro Belt Modification Kit.」と、ピニオンギア外しジグの「Pinion Gear Extractor.」を注文した。ピニオンギア外しの方はシャフト径が3mm用と4mm用の2つから選ぶ必要があったので、実際にSE2赤道儀の側面カバーを外して確認し、3mmの方を選択した。
決済についてはPayPalが使えるとの表示があったが、実際に手続きしていくとPayPalからRowan Astronomyに戻る段階でエラーが生じてしまい、手続きできなかった。最初住所と氏名が日本語になっていたので英語に修正したがそれでもダメ。その他にはクレジットカードも使えるが、海外通販の初めてのところでクレカを使うのはかなり抵抗がある。しかし準備段階から早々と挫折するのも悔しいので、ここは思い切ってクレジットカードで手続きし、決済を完了した。
配送は思っていたより早く、発送通知から一週間あまりで日本郵便で配達された。内容は下の画像の通り。DEC用の部品とRA側用の部品は分けられて袋に入っていた。
英国でもCOVID-19の感染が再拡大している最中だったが、Rowan Astronomyのトップページには「ロックダウン中だが、電話とWEBでの注文は通常通り処理し発送する」との記載があったので注文した。COVID-19の物質上での生存期間は数日間とのことだが、念のため届いた荷物は梱包の内外とも個別に消毒した。
作業開始&カバーの取り外し
上記画像には写っていないが、詳細な作業手順書が同梱されていた(これはWEBでもPDFで手に入る)。基本的にはこの手順書に沿って進めていった。
まずはフロントカバーを外していく(”front cover”と書かれていて、どこのカバーかわかりにくいが、ギヤー部分を覆っている側面カバーの事らしい)。
長年の屋外設置でネジが錆びきっていて外せるかどうか不安だったが、難なく外せた。
次はシャフトカバーで、下の画像のギヤーのある側の2つのネジと、(画像にはないが)反対側のネジ3つを外した。
赤経(DEC)モーター取り外し
パーツは赤経と赤緯が別れてパッケージされており、手順書でも分けて作業するように書かれている。それに従い、まずは赤経(DEC)のモータを外すところから始めた。
モーターより先にコネクタを外す必要がある。手順書にはDECモーターのコネクタを外すように書かれていたが、実際は全てのコード類がまとめてねじられており、モーターコネクタだけ外すのは困難と思い、画像に記録してから、RAモーター以外の全てのコネクタを取り外した。
コネクターは固くて外れにくかったが、無理に引っ張ってちぎれると困るので、慎重に徐々に外していった。ちょっと神経を使ったところ。
次にDECのモータープレートを止めている3箇所のネジを外した。
それからDECモータープレートを上方へゆっくり引き出した。コネクタは外しているが他の線と絡んでいるので慎重にほどき、赤緯軸にも引っかからないように気をつけながら取り出した。
さらにプレート側面のイモネジを緩めて、アイドラーギヤをシャフトごと取り外した。
再組立時のときのためにモーターのコード引き出し位置とプレートの位置関係を記録し、モーターを止めている3箇所のネジを外してモーターを取り外した。
これでDECモーター周りの分解が完了した。
DECモーターの駆動軸ギヤ交換
ここから購入したパーツへの交換作業に入る。まずDECモータ軸のピニオンギヤを外してベルト用のプーリに交換する。
ピニオンギヤの取り外しには、今回合わせて購入した「Pinion Gear Extractor」を使用した。
特に難しいことはなかったが、上部の取り外しネジを回すとジグごと回転してしまったので、ペンチで外側の枠を挟んでネジを回した。
モーターやプレート等にこびり付いているグリスをよく拭き取っておき、DEC用パーツの袋を開封した。
モーター軸に駆動プーリを取り付け、イモネジで固定した。
添付の手順書では、プーリ底面とモーター出っ張り面のギャップを5.5mmにするよう書かれていたが、上述のブログ記事を参考にして、カバーとの干渉を避けるためにとりあえず5.2mmに調整した。
また、手順書ではこのギャップ距離を後で再調整する必要があると書かれているが、モーターをプレートに取り付けた後では、このイモネジがプレート内に入ってしまい調整できなくなると思う(下の画像)。そのため、ひとまずこのギャップ距離に決めて本格的に締めて固定した。
そして、DECモーターをプレートに付けて3つのネジで仮止めし、アイドラープーリをプレートに付けて、アイドラーの溝位置を駆動プーリの歯の位置に合うように調整し、プレート側面のイモネジを締めて固定した。モーター取り付けネジの方もとりあえず本締めして固定。
このとき、モーターのコード引き出し位置とプレートの位置関係が元通りになっているかどうか要注意。
DECウォーム軸ギヤ交換
DECの駆動プーリ・アイドラープーリの組付けが完了したので、次は赤道儀側に残るウォーム軸ギヤをベルト用プーリに交換する作業となる。
DECのウォーム軸端に残っている平ギヤを、2箇所のイモネジを緩めて引き抜いた。
イモネジを緩めてもなかなか外れにくかったが、手でガタガタ揺すりながら持ち上げるとなんとか外れた。
グリスの汚れをきれいに拭き取ってから、ベルト用の従動プーリを取り付けた。
画像では見えないが、ギアと同じように2箇所のイモネジを締めて固定する方式。ただし後で駆動側に合わせて位置調整するため、軽く仮止めするにとどめた。
DECモーター・ベルト取り付け
DECのモータープレートを3箇所のネジで元の位置に戻した。この時点で従動プーリ(上の画像)の歯の位置を駆動プーリの歯とアイドラー溝に合わせ、イモネジで本格固定した。
それからモータープレートの固定ネジを緩めて出来るだけ従動プーリ側へ寄せておき、ベルトを3つのプーリに巻きかけてから、ベルトの張力が適切になるようにモータープレート位置を調整してネジで固定した。
上の画像はアングルが悪く、モータープレート固定ネジの一つがベルトの後ろに隠れて見えないが、3箇所のネジを締めてモータープレートを固定した。ベルトの張力は、一番長いスパンを指で軽く押して2mm程度たわむぐらい。なお、ベルトはポリウレタン製の台形歯型T2.5(2.5mmピッチ)だった。
手で大きい方のプーリ(従動プーリを)軽く回してみて、ベルトがプーリの歯からはみ出ていないか、アイドラーのフランジに干渉していないか、スムースに回転するか確認した。
最後にコネクターを元の位置に差し直してDEC側の換装を完了。
RA側の換装と思わぬトラブル
作業手順書では、DEC側と同じ作業をRA側でも繰り返すよう書かれているだけであった。注意点はモーターのコード引き出し位置とプレートの位置関係、およびアイドラープーリの径がDECと異なっているぐらい。
同じことを繰り返すだけなので、RA側も順調に換装を進めていったのだが、ここで思わぬトラブルが発生した。
ウォーム軸端の平ギヤを取り外す際、固定のイモネジをナメてしまった!!
マイナスドライバーとかトルクスレンチなども使ってなんとか緩めようとしたが、歯が立たず。行き詰まってしまった(慌てていて、この状態の画像を撮っていなかった)。
手持ちの道具ではこれ以上はどうしようもないため、amazonで「なめたネジを外すための専用工具」をお急ぎ便で発注し、この日は終了。
翌日、「ナメたネジを外すための専用工具」が到着。今後のことも考えて様々なサイズのネジに対応するセットを購入した。
アネックス(ANEX) インパクトドライバー ネジ取り ビット7本組 ケース付 No.1903-NS1
これは取り外し用のビットをナメたネジ頭に叩き込んでインパクトドライバーで外すものなので、ウォーム軸に使うのはかなり抵抗がある。本来であれば赤経軸を分解してホイールと分離してから作業するべきだが、現状ではそこまで分解した経験がないし、再組み立てと調整する自信もない。
そこで、まずは「まあ大丈夫だろう」という程度の控えめの力で叩いてみて試すことにした。それでダメならやはり赤経軸を分解するしか無い。
六角ネジ2.0mm用のビットを選択し、恐る恐る、コンコンと軽めに数回叩いてからドライバーを左にひねると、イモネジが無事に外れてくれた。
助かった!!
これ以降は特に問題なく、DECと同様に換装を完了した。
動作確認とカバー取り付け
ここで一旦、動作確認のため電源とコントローラーを接続し回転させてみた。
等速から最高速まで問題なく動作することを確認でき、ベルトやプーリがスムースに回転して異音の発生もなく一安心。
カバー類の取り付けは、まずシャフトカバーを先に戻し、樹脂製のフロントカバー(ギヤカバー)のスペーサーを間に挟んで、元のフロントカバーを付属の長いネジで取り付けた。
作業完了でほっとして、最後のフロントカバーを付けた画像を撮り忘れた。
結果と今後
バルコニーで三脚に戻して試運転した。
音については、高速駆動時のガラガラ?というような音とビビリのような音がなくなり、「ウィーン」という音だけになった。これだけでも賑やかな印象が収まったように思う。「ウィーン」という音もそれなりに大きいが、これはウォームギアの方だと思うのでまた今後の課題。
PHD2によるガイド撮影を2時間程度行ってみたが、特におかしな挙動もなく、普段使っている700mm程度の焦点距離で全てのコマが点像になった。これについては元々この程度の精度があったので、どのぐらい改善しているのかは今のところ不明。
今回ギヤカバーを外して見たところ、平ギアのグリスがかなり黒くなっていた。おそらくウォームギヤも同様だと思う。そのため、やはりウォームの噛合部のグリス交換と噛み合い調整を行う必要があると思った。ただこれも下手をすると今の精度を落としてしまいかねないため、踏ん切りがつくのに時間がかかりそう。
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