15年前のデジカメでたった8分露出で撮ったアンドロメダ銀河の画像を再処理してみた。

5月15日に発売となった「アンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアル」。これについては下記記事で詳しく紹介している。

天文プロもベテランアマチュアも、とりあえず買って読んでみれば、それぞれの立場で新たに気づかされることが有ったり、色々考えされられるのではないか。いまこのような本が印刷物(紙の書籍)で登場すること自体も含めて、問題提起の一冊でもある。

それにしてもこの本のタイトルは長い。特に会話の中に入れるのはしんどい。「あのアンドロメダ銀河かんたん映像化マニュアルを買って読んでみたんだけどさ~」とか。なので、アニメやラノベのタイトルみたいに略称が欲しい。もっと昔の例えなら「試験に出る英単語」が「しけたん・でるたん」になったように、4文字ぐらいが手ごろかな。「メダマニ」とか・・・。「あの、メダマニ本に書かれていたことだけど・・・」とか、「メダマニの改訂版が出るらしいよ?」とか。メダマニが良いと提案しているのではなく、あくまで例えで。しっくりくる略称を公式(著者)が考えてくれたら有難い。


さて、この書籍の内容で、著者のJUNZOさんが撮影したアンドロメダ銀河の画像を、画像処理の達人・蒼月城さんがそのテクニックを駆使して再処理するというものがある。結果として、達人・蒼月城さんの処理画像は、JUNZOさんの処理画像から飛躍的に向上した見栄えとなった。これの過程・詳細については蒼月城さんがYouTubeで公開されている。PixInsightを駆使して、アンドロメダ画像が見違えるようになった。

これを見て、色々と思い出した。

私は銀塩フィルム時代から天体写真を撮っているが、デジカメを初めて天体に使いだしたのは2008年頃。もう15年も前になる。当時購入したのはキヤノンEOS Kiss X2。レンズはフィルム時代から使っているEF200mm F2.8L II USM。これをスカイメモRに載せて星雲・銀河に向けて撮影していた。もちろん自動導入やオートガイドなんてものは無い。

2008年の撮影機材(スカイメモR + Kiss X2 + 200mmレンズ)

この機材を持って峰山高原に行き、アンドロメダ銀河を撮影して処理した画像が↓。

M31 アンドロメダ銀河(2008年撮影・2008年画像処理)

【環境】2008/8/10 0:11 /兵庫県神河町・峰山高原/気温:不明/光害レベル:SQM-L測定値=未測定
【光学系】EF 200mm F2.8L II USM F2.8開放
【カメラ】Canon EOS Kiss X2(無改造)
【架台・ガイド】スカイメモRによる恒星時追尾(オートガイド無し)
【撮影法】ISO1600, 60sec. x1, 120sec. x1, 180sec x1
【処理法】:ステライメージによる処理、トリミングあり

露出はISO1600で1分+2分+3分の6分だけ。当時のデジカメはまだ熱ノイズが酷かったのでさすがにダーク画像は取得していたが、フラットは撮っていなかった。自分の画像処理スキルも低く、フラット処理が良く分からなかったようだ。画像処理ソフトもステライメージの当時のバージョンのみ。天文趣味歴は長いが、デジタル画像初心者の状態だった。

それでもアンドロメダ銀河の渦巻き構造がかなりクリアに写ったので嬉しかったのを覚えている。なにしろ銀塩フィルム時代に撮ったアンドロメダ銀河は下の画像のような低クオリティーだったから。

フィルム時代に撮ったアンドロメダ銀河

これは、同じスカイメモRと200mm F2.8Lレンズで、カメラだけが違う(EOS 55)。カメラをデジカメに変えて画像処理するだけで大幅に画像のレベルが上がった。それがうれしくて勢いで星ナビに送ったら、「超短時間露光でもここまで写る」例として掲載してもらえた。


さて、この2008年に撮ったRAWファイルを用いて現在所有する画像処理ソフトと自分のスキルで再処理したらどうなるか、試してみることにした。実は1年ほど前にもJUNZOさんの運営するサイトの「銀河星雲図鑑」に投稿するために同じことをしていた。

みんなで作る「銀河星雲図鑑」
いい感じで銀河星雲を撮影できたらアップしよう!

この時に2022年時点の画像処理ツールとスキルで処理した画像が↓。

アンドロメダ銀河(2008年撮影・2022年処理)

しかし昨年はまだPixInsightの使いかたも良く分かっていなかったし、BlurXTearminatorのようなプラグインも無かった。

そこで今回はリニア処理でBlurXTerminatorやNoiseXTerminatorも入れて、再度最新のツールでやり直した。なお、2分露出の画像がもう1コマあったのでそれを加え、合計8分。その画像処理結果が下の画像。

アンドロメダ銀河(2008年撮影・2023年処理)
アンドロメダ銀河(2008年撮影・2023年処理)
  • 【撮影法】ISO1600, 合計8分(60sec. x1, 120sec. x2, 180sec x1)
  • 【処理】
    • PixInsight:WBPP, ABE, DBE, SPCC, SCNR, BlurXTerminator, NoiseXTerminator, Masked Stretch, StarNet V2
    • ステライメージ9:2×2ソフトビニング、マルチバンドシャープ
    • Photoshop:ノンリニア段階での調整(各種ノイズ低減、彩度、コントラスト調整など)・トリミング・JPEG出力

なお、ピンクスター対策は蒼月城さんの動画にならって「Repaired HSV Separation」による方法を用いた。

2008年の画像とは総露出時間が6分→8分と少し長くなったが、それでも断然に良くなった。「銀河星雲図鑑」に投稿した2022年の画像からの進歩は少ないが、精細さが上がっているように思う。これは主にBiurXTreminatorの効果が大きい。

15年前のデジカメで8分だけ露出したRAWデータにこれだけの情報が入っていたとは・・・。

天体写真のクオリティーを決める要因としての「撮影:処理」の割合は、どんどん「処理」の方が大きくなっているように思う。そのため同じ撮影画像ファイルからでも処理を最新の手法に変えるだけで品質が上がる。こうなってくると、過去の画像をどんどんと再処理したくなってくるが、それは時間がいくらあっても足りなくなりそうだ。

そしてこのスカイメモRとEF200mm F2.8L II USMは、購入して四半世紀以上、銀塩フィルム時代からデジカメ移行期、そして現在の電子制御全盛時代に至るまで、苦楽を共にしてきたので大変愛着がある。夏の砥峰では突然の雨に降られ、冬の多可町では雪に埋もれ霜に覆われ凍り付き、明け方はいつも夜露で濡れ、キャップやネジなどの細かい部品たちがいつの間にか観測地の闇へと消え去っていった。しかし今でも元気に動いている。さすがに出番はほとんどなくなったが、たまには使ってやりたい。

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