PixInsight:Void画像からABEで光害成分を除去した後にDBEで背景モデルを作成

前回の試行について

先日、光害地での撮影においてフラット補正が不整合になる問題に対し、Void画像(星雲や輝星が無い領域の画像)を用いて補正するFlatAide Proの手法を、PixInsightでも使えないか検討した。

このときはVoid画像にDBEを適用した背景モデルを作成し、合成前の複数のLight画像にその背景モデルを共通に用いたDBEをバッチ適用することで、まずまず良好な結果を得た。またDBE適用後にも残る光害カブリは、1次のABEを同じく複数のLight画像にバッチ適用して補正した。

その際、Void画像に載っている光害カブリ成分をそのままにして、DBEで背景モデル化して良いかということに関して考察した。その結果、本来は光害カブリを除去すべきだが。その光害カブリの方向が各Light画像と同じ向きであれば、結果としては上手くいくという暫定的結論となった。

しかし、本来は共通背景モデルから光害カブリ成分を除去するべきと思うし、その方法も試しておきたいと思い、今回はそれを実行した。

Void画像に1次ABEを適用して線形カブリを除去してからDBEで背景モデル作成

まず下の画像(↓)は光害成分が載ったままのVoid画像にDBEを適用して得られた背景モデル。前回はこれをLight画像のDBE処理に用いた。

Void画像の光害成分をそのままにして、DBEで作成した背景モデル
【前回】Void画像の光害成分をそのままにして、DBEで作成した背景モデル

背景の明るさが右に偏っているし、上下方向で色が違う。

次に、下の画像(↓)はVoid画像にABEを1次の補正関数で適用し、その後DBEで背景モデルを作成したもの。

Void画像にABEを1次で適用し、その後、DBEで作成した背景モデル
【今回】Void画像にABEを1次で適用し、その後、DBEで作成した背景モデル

注意すべきなのは、ABEで1次の(線形の)傾斜が除去されているが、それが全て光害成分であるという確証は無いということである。ELシートの輝度偏りやその他光学系に起因し、フラットの不整合についても線形成分が含まれる可能性はあり、それについても除去されてしまっている(はず)。逆に光害にも2次以上の非線形成分は含まれているはず。しかし光害カブリのとフラット不整合成分を切り分ける術はないので、今回は線形成分を全て光害カブリとして除去している。

上の画像を見ると、ABE適用前に比べると対称的であり、フラット不整合の雰囲気は出ている。特に目立つのは上下の水平の辺に沿う黄土色のカブリである。今回のカメラ(ASI294MC Pro)がフォーサーズセンサーであることを考えると、これはイメージサークルのかなり中の方に入り込んでおり、レンズ(望遠鏡)やフィルターの影響とは思えない。おそらく、CMOSカメラのセンサー周りの四角い枠かカバーガラス付近の影響と思う。

これら上の画像は「フラット画像そのもの」ではなく、「(Void画像による擬似的な)スカイフラット」と「ELシートフラット」の比である。つまり、フードにELシートを押し当ててそこから来る光と、空や周囲の環境から来る光はカメラセンサーやカバーガラス付近で異なる伝わり方をしている。もちろん望遠鏡内でも異なる伝わり方をしており、その影響はイメージサークルと同心円状に出るので、それは今回四隅の落ち込みとして出ている。もっと言えば、実際の空とELシートは色温度が違うので、それも差異の要因になっているのではと思う。

そう考えるとやはりスカイフラットは優秀だが、Light画像と同数コマ撮影するのは現実的に無理である。そこで、今回のようにELシートによるフラットでゴミやセンサーピクセルの感度ムラなどピクセル単位の基本フラット補正を行い、1コマのみのVoid画像でスカイフラットとの差異を補正する手法が効率的と思う。

線形傾斜成分を除去した背景モデルで各Light画像をDBEバッチ処理

次に、線形成分(≒光害カブリ)を除去したVoid画像から作成した背景モデルを共通に用い、各Light画像をDBEで処理した。下の画像は、その最初と最後のコマである。

「Void画像からABEにて線形カブリを除去した背景モデル」によるLight画像のDBE処理結果(上:最初のコマ、下:最後のコマ) *Boosted
「Void画像からABEにて線形カブリを除去した背景モデル」によるLight画像のDBE処理結果(上:最初のコマ、下:最後のコマ) *Boosted

理屈でいうと、上の画像ではフラット不整合は補正され、光害カブリのみが残っているはずである。光害の変化は斜め方向になっているように見えるが、あまり良くわからない。

更に、各Light画像に1次のABEをバッチ適用し、線形カブリ成分(≒光害カブリ成分)を減算補正したものが下の画像である。

DBEでフラット不整合補正後、ABEで光害カブリ成分補正(上:最初のコマ、下:最後のコマ) *Boosted
DBEでフラット不整合補正後、ABEで光害カブリ成分補正(上:最初のコマ、下:最後のコマ) *Boosted

おおむね均質になったように見える。

合成・調整後の画像を前回と比較

上記で処理したLight画像を加算合成し、前回同様に調整・強調処理したものが下の画像(↓)。

Void画像をABEで光害カブリ除去してからDBEの背景モデル作成
【今回】Void画像をABEで光害カブリ除去してからDBEの背景モデルを作成して処理

下の画像(↓)は前回の処理画像。

Void画像に光害カブリが載ったままDBEの背景モデル作成
【前回】Void画像に光害カブリが載ったままDBEの背景モデルを作成して処理

両者とも背景ムラは良好に補正され、ほとんど変わらないように見えるが、カラーバランスが若干異なっている。今回、勾玉星雲上部付近の色をできるだけ合わせたが、そうすると背景の色が少し違ってしまった。今回の方が背景の赤色成分が少なめ。

これまで散光星雲が広く分布した画像を色々処理してきたが、薄く淡い赤色成分があるところは、本当にそこに淡い星雲があるのか、もしくはフラット不整合や熱ノイズによるムラ・ノイズなのかわからなくなる。そういうときは仕方なく彩度と輝度を落として消してしまっているが、本当に淡い星雲ならもったいない。

結論

今回の場合、結局どちらでもあまり変わらなかった。若干の色の違いは処理次第でどうにでも変わる範囲内。

ただ、やはり原理的には前回ではなく、今回のようにVoid画像からABEで光害カブリを除去してから背景モデルを作るのが正解と思うので、どちらもあまり差がないのであれば、今回の方法を採用したい。

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