M90銀河を横切る光点の発見
前回記事の「おとめ座の系外銀河M90」の画像処理を行っているとき、スタック後の銀河の画像に「ごく薄い線」が重なっていることに気が付いた。
とても薄いので、ノイズ低減などの画像処理の過程で消えてしまったが、それでも原因を探らないと気になって仕方がない。
最初は、人工衛星が通過したコマを除外し忘れて、さらにスタック時のシグマクリッピング処理でも消し切れなかったのかと思った。しかし、すべてのコマをチェックしても人工衛星の線が写ったものは無かった。
ひとまず、2022年4月4日13時58分(UT)と17時33分(UT)の2つの時間のコマを取り出してみた。
約3時間半の間にM90の長径程度の距離(約10分角)程度しか移動していないので、人工衛星では無い。とすれば、彗星か小惑星ということになる。周囲の星の明るさと比較して、おおよそ16等級~17等級前後のようだ。
アニメGIFにしてみると、移動する様子が良くわかる。
画像内の位置から該当する小惑星を検索
では、これは一体何か、ということを調べるため、まずステラナビゲータにデータが入っている彗星と小惑星を全て表示させてみたが、該当する天体は無かった。一瞬、「新彗星か!」と思ったが、ステラナビゲータには既知の全ての小惑星と彗星が入っているわけではない。16等級の彗星ならばデータ化されているだろうから、おそらく小惑星だろうと推測した。
画像に写っている光点が既知の小惑星なのかどうか、ということをこれまで検索したことが無かったので勝手が分からなかったが、WEBで色々と調べていると、日時と座標から近傍の小惑星を表示してくれるサイト(MPChecker: Minor Planet Checker)を見つけた。
まず、17:33(UT)の画像を見て、ステラナビゲータで未知の光点の赤経・赤緯(J2000)をおおよその値で把握した。
これらの値を上記サイトのフォームに入れた。
ただし、この入力フォーム内の書式が難しく、ちょっと間違うとエラーが返ってくるので、何回もやり直すなど苦労した。
まず日時はUTだが、西暦4桁、月2桁はそのままで良く、日と時間を日の単位で小数点入力しないといけない。つまり「4日17時33分」は、「4 + (17/24) + (33/1440) 」で4.73となる。
赤経(R.A.)は、「12h36m36.1s」 の分と秒を分単位の小数に直し、時と分の間に半角スペースを入れる。これで「12 36.6」となる。赤緯(Decl)は「13°07’59″」の分と秒をまとめて分単位にして、°と分の間に半角スペースを入れて「13 08」となった。ある程度(数分角)の範囲で検索してくれるので、秒単位の部分はそれほど厳密でなくても良さそうだ。
フォームのその他の項目はデフォルトのままとした。これが本当に正しい入力方法かどうかよく分からないが、とりあえずこれで「Produce list」を押すと結果が出た(下の図)。
MPChecker結果
検索結果として、小惑星56201(1999 GD17)・光度17.6が表示された。位置も等級もおおむね当てはまりそうなので、これだと思う。
小惑星の軌道要素取得
確認のため、この小惑星の軌道要素を取得し、ステラナビゲータで表示させてみることにした。
軌道要素の取得は、これも色々検索して、アストロアーツのサイトの「小惑星軌道ビューワー」にたどり着いた。
これは小惑星の番号(56201)を入れて「検索」を押すだけで軌道要素が出てきた。
なお、「軌道表示」については、Javaやアプレットのインストールが必要になるようなので、今回は用いなかった(後でステラナビゲータを用いて表示するため)。
ステラナビゲータへの登録と表示
ステラナビゲータへ新しい小惑星を登録するには、メニューから「天体」-「小惑星」で小惑星の設定パネルを表示し、「新規」で軌道要素を入れて「OK」で登録する。
入力項目は「小惑星軌道ビューワー」の結果をそのままコピー・ペーストした。絶対光度は不明なのでデフォルトの16等のまま。スロープパラメータもそのまま。
登録後は、小惑星の設定パネルで「表示小惑星」の欄にこの56201を移動し、符号や名称を表示させるチェックを入れる。
これで星図に表示できるようになった。
星図上の移動の状況は今回の光点の移動と一致したので、これは「小惑星56201(1999 GD17)」であることが分かった。
このような天体同定について、今回初めてツールを調べるところからやってみたが、なかなか面白かった。
コメント