概要
ミューロン180Cは惑星撮影専用機として導入しており、ディープスカイの撮影は意図していなかった。しかしその割には純正レデューサーも同時購入しており、それを全く使っておらずもったいない気がずっとしていた。そこで、今年冬~春にかけて主要惑星が一斉にシーズンオフとなったのを機会に、「ものは試し」ということで各種対象を一通り撮影してみた。
結果としては、「思っていたよりは結構使える」というものであった。ただし、得意分野はやはり輝度の高い惑星状星雲や球状星団であり、系外銀河外縁の淡い部分や散光星雲については光害に埋もれるので多くの露光を重ねてあぶり出す必要があり、その点でF値の大きいミューロン180Cは不利と感じた。
機材構成
機材構成は下の画像の通り。
- 鏡筒: タカハシ ミューロン180C+純正レデューサー(f=1780mm F9.9)
- 対光害フィルター: Comet BP
- カメラ: ZWO ASI294MC Pro (センサーピッチ:4.63 μm)
- 赤道儀: ケンコー NEWスカイエクスプローラー SEII (ベルトドライブ改造済)
- ガイド鏡:SVBONY 30mm F4ガイド鏡 (f=120mm)
- ガイドカメラ: ASI ASI120MM mini (センサーピッチ:2.4μm)
- ソフトウェア: Windows10 PC使用 <撮影>APT3.84 <ガイド>PHD2
とりあえずの試行ということで、機材構成はありあわせで暫定的なものとなっている。
まず、本来ならば迷光防止のために鏡筒先にフードを付けるべきだが、この鏡筒用のフードは持っていないため省略した。幸いひどく目立つカブリ等は無かったが、本格的に運用するならフード調達も考えたほうが良さそうだ。
カイドについても、この焦点距離ならばオフアキシス方式にするべきとは思ったが、その機材がないためガイド鏡方式とした。鏡筒下のアリガタプレートをスターベース販売の(ミューロン用アリガタL)に交換し、その下部にガイド鏡を設置した。ガイド鏡は最初5cm F4のものを載せようとしたが鏡筒の前後バランスが取れなかったので、3cm F4 (f=120mm)にした。
ガイド精度
撮影鏡筒の焦点距離が約1800mmに対し、ガイド鏡の焦点距離が120mmで、15対1の比率になる。ただし、撮影カメラのセンサーピッチが4.63μm、ガイドカメラが2.4μmと約半分なので、それを考慮すると、8対1ぐらいになる。最近のPHD2ならば、そのぐらいなら行けそうな気がした。
こちらの記事では、歩留まりは良好で精度的にも問題なさそうと書いたが、他の対象では5割ぐらい星の形が歪になって半分の画像を捨てることも有り、バラツキが大きい。ただし風による揺れや大気のゆらぎの影響もあるため、ガイド精度の問題なのかどうか切り分けにくい。明らかにガイドズレという感じで流れているコマは多くて2割程度であるので、星の形状の歪みを許容できるかどうかで判断が異なる。
小さな惑星状星雲や球状星団でピクセル等倍を前提にするなら、もっと精度が必要。散光星雲や系外銀河で、縮小した上でスターシャープ処理によって星像を削って良いならば、現状のままで良さそう。
ひとまず、5cm F4程度のガイド鏡を載せられるように工夫したい。
なお、赤道儀の挙動は安定しており、ガイド時にPHD2のグラフが大きくズレるなどということはなかった。ベルトドライブ化の恩恵かとも思うが、ベルトドライブ化以前に試行していないので、本当のところは不明。
対光害フィルター
光害地での撮影なので対光害フィルターが必要になる。カラーカメラによるワンショット撮影なので、これまでの経験からはQuad BPフィルターが有力候補になるが、露光倍数が大きいのでF値の大きなこの機材構成では露光不足になる。そのためComet BPフィルターを用いることとした。これはQuad BPより対光害効果は劣るが、紫外線~青色領域の光も通すので、カラーバランスが自然になる。
月明下の輝線星雲撮影においても、Quad BPは大きな効果を発揮するが、やはり露光不足を懸念してComet BPにした。
これは個人的な好みの問題だが、系外銀河の外周部などは青色が出てほしいので、最近はずっとComet BPを用いている。
なお、以前にComet BPを導入した際、各CMOSカメラのEOSカメラマウントアダプター内に付けていた防塵目的のIR/UVカットフィルターを、オプトロンのクリアフォーカシングフィルターに換装している。Comet BPの短波長側の透過域は360nmぐらいまであり、クリアフォーカシングフィルターの透過率は360nmで70%程度、380nmで90%程度で少しカットされてしまうものの、おおむね通過する。
この防塵目的のフィルターが無いと、カメラ本体のカバーガラスにゴミが付いたときにかなり濃い影になって目立ち、補正が難しくなる。カメラマウント位置のゴミは比較的淡くなって目立たない。画質低下の影響も考えられるが、濃いゴミよりはマシ、と思っている。CMOSカメラとカメラマウントは基本的に付けたまま外さず、ゴミが入らないようにしている。そのため、鏡筒・レンズ側も全てEOSマウントで統一した。
フラット補正
フラット画像撮影には以前制作した「A4版ELシート」のセットを用いた。
ただ、結果としてはこれがあまり合わない。鏡筒にフードを付けていないため、天体撮影時のカブリが影響しているかもしれない。
結局、追加の補正をPixInsightを用いて行っている。以前はFlatAide PronのバッチキャリブレーションでVoid画像を使用したシェーディング補正をしていたが、現在はPixInsightのDBEでVoid画像の背景モデルを共通に使用した処理方法を行っている。
ただし天体(Light)撮影時のゴミ等についてはフラット画像撮影による補正が必要なので、フラット撮影は1対象撮影ごとに行っている(ゴミの移動を極力避けるため、撮影後に鏡筒を動かさず実施)。
適性(惑星状星雲)【優】
さて、ここから以下は各種天体への適性評価となる。
まず、最も適しているのは「惑星状星雲」と思う。輝度が高いので光害に埋もれにくく、暗い鏡筒でも問題ない。1コマの露光時間を短くできるのでガイドズレ・ブレの影響を小さくできる、小さい対象が多いため1800mmの長焦点距離を活かせる、などのメリットが有る。
今回の各試写では露光時間を60秒にしたが、今後、もっと短かい露光時間で多数枚撮影によるラッキーイメージング的手法についても試してみたい。
下は試写のリンク。
適性(球状星団)【良】
球状星団は主体が恒星なので基本的には明るく光害の影響を受けにくい。そのためこれも適していると思う。中心部を分離するのにも長焦点距離は適していると思うが、恒星は点光源なので大気のゆらぎの状況によってはボヤケてしまう(これは鏡筒が何であっても同じ)。
ただ、球状星団外縁部の暗めの星については光害に埋もれるため、やはり無光害地と同等の写りとというわけではなさそうだ。無光害地に比べて球状星団が一回り小さくなったような印象を受ける。
下は試写のリンク。
適性(系外銀河)【可】
系外銀河について、中心部は明るいので構造がよく分かるように写り、なかなかの迫力もあるので【良】だが、外縁部は光害に埋もれ、よほど長い露出時間を積み重ねないとあぶり出せないので、【不可】。平均して【可】とした。もちろん、割り切って中心部だけを切り出すという処理の仕方も有りかもしれない。
例えば下の画像はM106だが、外縁部が背景の光害に埋もれてしまい、DfineでもDeNoise AIでも対処しきれないノイズの多さで処理をすすめるモチベーションを失って、途中で放棄してしまった。
これで約200分の露光時間だが、ノイズが目立たい程度に外縁部をあぶり出すには、4倍程度の露光が必要かと思う。それは可能ではあるが、4晩の快晴をM106のみに費やすので、自分の趣味スタイルには合わない。大型の系外銀河なら、R200SSを買って、800mm・F4か1120mm・F5.6にて撮影するほうが良いのではないかと思う。
ただ、明るい部分だけでも特徴的な形状がわかる系外銀河(子持ち銀河やクジラ銀河)はそれなりに写ってくれた。
下は試写のリンク。
適性(散光星雲)【可】
そもそも散光星雲をF10鏡筒で、しかも光害地で露光倍数が大きなフィルターを付けて撮影すること自体が選択肢外だと思ったのだが、星雲中心の明るい部分を長焦点距離でアップにするのは「アリ」かと思って、一例だけM16の中心部(創造の柱)を撮影してみたら、思いの外よく写ってくれた。
系外銀河同様、大型で明るい散光星雲の中心部だけを切り出すなら、そこそこ使えそうだし、長焦点距離ならではの面白さもあるかもしれない。例えばオリオン大星雲の中心(トラペジウム)、北アメリカ星雲、網状星雲の赤・青が絡み合った濃いところ、バラ星雲内のグロビュールなど。ただし明るい対象は少ないので、すぐ撮り尽くすかもしれない。
まとめ
- ほぼ惑星専用機と思ったミューロン180Cでも、明るい星雲なら光害地でも結構撮影できる。
- 適しているのは、輝度が高くて小さな(長焦点距離が活かせる)、惑星状星雲、球状星団。
- 系外銀河と散光星雲は、明るい中心部の構造をアップで写すのが良い。淡い外縁部はよほどの長時間露光をしない限り、光害とノイズに埋もれる。
- 散開星団は試写せず。
- 焦点距離約1800mmの撮影鏡に対し焦点距離120mmのガイド鏡でも、厳しいことを言わなければそこそこガイドできるが、球状星団をピクセル等倍で分解するには少し頼りない。
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